- カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞!
- アカデミー賞
最有力!
⇒作品賞を含む、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4部門を受賞!
なぜ韓国映画『パラサイト 半地下の家族』はこれほどまで、世界中で絶賛されているのか。
クスッと笑ってしまうブラック・コメディでありながら、どんでん返しが待ち受けるサスペンスでもあり、さらには社会問題にツッコミをいれるリアルな物語だから?
韓国で起きた話でありながら、世界各国が直面している問題として共感できるから?
たしかに、これらの回答は『パラサイト 半地下の家族』が傑作として賞賛される理由のひとつでしょう。
しかし私はそれ以上に、この映画のテーマである「貧富の格差」の伝え方が絶妙だからだと考えています。
以下より、『パラサイト 半地下の家族』の表現力がいかに素晴らしいかを
- 構図
- カメラワーク
- 不明瞭なタイトル
の3つのポイントから説明していきます。これを意識しながら映画をみると、通常の3倍は楽しめるはずです。
あらすじ・キャスト・製作スタッフについては触れませんが、ネタバレありの感想・考察です。映画を観たうえで、参考にしていただければ幸いです。
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【ポイント①】貧富の格差は「線」で明確に区切られている
どう考えても「視覚的」にジャマである窓ガラスの仕切り。
一見ジャマに思えるこの「線」はこの映画における重要なファクターであり、貧富の格差をあらわす境界線となっています。
このような「線」は随所にわたってみられ、必ず「金持ち」と「貧乏」にきっぱり分けられています。
「金持ち」と「貧乏」は同じ空間にいながらも、両者を分ける「線」があるのです。たとえば…
主要舞台となっているパク家の豪邸には「線」だらけ。片方には金持ち、「線」を隔てて、もう片方には貧乏の構図が守られています。
例①
例②
例③(ちょっと見えづらいですが、観葉植物の後ろに貧乏長男がいます)
例④
例⑤
例⑥(貧乏長男が給料を受けとると、カメラアングルが変わり金持ち側に。次にできた「線」は画面右から登場した貧乏家政婦との間にできる。)
例⑦
パク社長が経営しているIT企業の事務所にも、貧富の差をあらわす「線」がみられます。
例⑧
例⑨
また、「線」ではないですが、「光」も貧富の境界線として表現されています。
暗い貧乏な半地下⇒明るい金持ちの豪邸にむかう長男キム・ギウ。歩く先には光があたっており、明るいです。
はじめて豪邸に入るシーンは光が明るすぎて、もはや家の形すら確認しづらい。
このように綿密に計算された構図は『パラサイト 半地下の家族』の肝となっています。
【ポイント②】「上から下」と「下から上」のカメラワークは天才的
『パラサイト 半地下の家族』のカメラワークは巧みで、
- 貧乏側は「上から下」(よくても平行)
- 金持ち側は「下から上」
に映すルールが守られています。
これは「貧乏は金持ちから見下ろされる立場」あるいは「貧乏は金持ちを見上げないといけない立場」とも捉えることできます。
貧乏側のカメラワークは「上から下」(よくても平行)
たとえば、地上⇒半地下にいる貧乏のキム家を映すこの冒頭映像。
「上から下」を分かりやすいように撮っています。
あるいは、高台の高級住宅街⇒半地下のスラム街へと戻る豪雨のシーン。カメラワークは基本的に「上から下」。
上から下
上から下
上から下
貧乏側のカメラアングルには「下から上」はありません。よくても並行です。
平行
平行
唯一の例外は、水圧の関係で室内の一番高いところに配置されているトイレ。
金持ち側のカメラワークは「下から上」
反対に、半地下のスラム街⇒高台の豪邸へとむかう長男キム・ギウ。カメラワークは「下から上」。
貧乏は「上」を求め、金持ちは「下」を見ない
カメラワークやアングルとは少し話がそれてしまうが、「上」を求める貧乏人と「下」を見ない金持ちの表現もお見事です。
貧乏のキム家はWiFi(電波)を拾うためにスマホを「上」にかざす。彼らが求めるものは「上」にあるのです。
一方で、金持ちのパク家は「下」を見ない。
貧乏キム家は宴会のゴミをテーブルの下に無理やり押し込み、自らの体も隠すが、最後までバレることは無い。なぜなら、金持ちは「下」を見ないからです。
「下」を見ない金持ちパク家は、自分たちが住んでいる家に地下室があることすら知らない。だから迫っている脅威に気づくことができないのです…
【ポイント③】金持ちと貧乏人、パラサイト(寄生)している者はどっち?
映画のタイトルのパラサイト(Parasite)は「寄生」を意味します。
寄生(きせい、Parasitism)とは、共生の一種であり、ある生物が他の生物から栄養やサービスを持続的かつ一方的に収奪する場合を指す言葉である。
人間の場合は「他社に依存して生きる者」と置きかえることができます。それを踏まえたうえで、
『パラサイト 半地下の家族』のあらすじだけを聞くと、てっきり貧乏人が金持ちから搾取(依存)するストーリーかと思ってしまいます。ところが映画本編を観ると…
果たしてどっちが寄生しているのか分からなくなってしまいます。
たとえば金持ち父さんパク・ドンイクは自分の妻ヨンギョを「家事は苦手、つくる料理は不味い」と説明している。
金持ちパク家は、豪邸を維持したり、買い物をしたり、子どもたちに勉強させるためには家政婦・ドライバー・家庭教師に依存しないといけません。この関係性は冒頭からエンディングまで、しつこいほど表現されています。
物語をとおしてパク家が「他社に依存することなく自分たちだけで完結」する作業はありません。天候不良のせいとはいえ、一家だけで出かけたキャンプすらもうまくいかない。
そう考えると、映画のタイトルにもなってる「パラサイト=寄生する者」はどっちでしょうか。
裕福な家族から搾取する貧乏な家族?
それとも貧乏な家族に依存しないといけない裕福な家族?
最後に
さて、画像多めで長くなってしまいました。
私が考える『パラサイト 半地下の家族』の素晴らしさは以上となります。もう一度振り返ってみると、
- 「線」で区切られている貧富の格差の構図
- 「上から下」と「下から上」の巧みなカメラワーク
- パラサイト(寄生)している方は貧乏人ではなく金持ちと捉えられる不明瞭なタイトル
『パラサイト 半地下の家族』はナレーションで説明することなく、ビジュアルで語る。映画のテーマである「貧富の格差」の表現力は絶妙で、この伝え方のうまさが、傑作として評価される理由だと考えています。
構図、カメラワーク、タイトルの意味を意識しながらもう一度映画をみると、前回とはまた違った角度から楽しめるのではないでしょうか。
『パラサイト 半地下の家族』のデジタル配信が6月19日(金)より始まります。
他社に先駆けて、Amazonプライム・ビデオが独占先行配信となります。
- Amazonプライム・ビデオ配信開始
⇒6月19日(金) - Amazon以外の動画配信サービス配信開始
⇒7月3日(金) - ブルーレイ/DVD発売開始
⇒7月22日(水)
なお新作映画のため、Amazonプライム・ビデオ及び他の動画配信サービスはしばらくの間、有料レンタルとなります。